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企業内コーチ育成のすすめ

※この記事は、㈱帝国データバンク発行「週刊帝国ニュース兵庫県版」に、代表理事・正田佐与が月1回ペースで連載している記事「企業内コーチのすすめ」を、同社神戸支店のご厚意により、転載させていただいています。

第一回 企業内コーチ中国へ行く
第二回 危機感共有を引き出すコミュニケーション
第三回 出店ラッシュを支えたリーダー育成
第四回 カギは「学ぶ」企業と個人
第五回 「オーラのないリーダー」の時代?
第六回 女性活用のコツは?
第七回 やる気のない人をやる気にさせるには?
第八回 リーダーの「叱る力」
第九回 話を聴けない若手、急増中?
第十回 社長が「承認」を学ぶとき
第十一回 「ゆとり世代」を戦力にするコツ
第十二回 「仕事と生活のバランス」を支えるコーチング


社長が「承認」を学ぶとき

 

●社員を「承認」できないんです

 リョウさん(男性)は、最新のトレーニングジムを経営しています。
 一昨年、会社員から独立・起業。いま注目の分野だけに、あっという間に神戸市内に3店舗を出し、今年6月には大阪にも進出しました。
 しかし、先ごろ行われたコーチング講座の1日目に参加したとき、リョウさんの表情は疲れ切っていました。
「私、スタッフを『承認』できないんです」
 社員と話すたびに、「甘い」と感じる。イライラして切れそうになる。怒鳴ってしまう。

 どうやら、だいぶスタッフとの間に摩擦があり、離反が起きていたもよう。
優秀な起業家には、珍しいことではありません。

 講座の1日目には、コーチングの「承認」(=認める、ほめる)という手法をかなり「みっちり」扱います。これは、人の働く動機づけの中で「認められる」ことが最も重要で根源的なもの、という当協会の考えに基づきます。
 リョウさんの苦悩の表情は深くなっていきました。
 講座のあとの喫茶店での懇親会でも、リョウさんは
「承認できない」
という言葉を繰り返しました。
「今ひとつ見えてこないのですが、」
と私はきいてみました。
「何かを変えたいと思っているのですか?」
「思っていますよ。今日もこのあと、スタッフとミーティングをするんです」
とリョウさん。
 少し、表情が張りつめていました。

●「君と仕事ができて幸せ」

 翌朝。
 講座1日目のあと、「身近な人を『承認』してくる」という宿題を出します。2日目の朝は、その発表から始まります。
 最前列に座っていたリョウさんは、後ろを向いて参加者全員に顔を向け、しっかりした口調で言いました。
「きのうは、『今日こそスタッフをほめる』と、悲壮感が漂っていました。きのう夜7時からこの会場の近くでスタッフと待ち合わせ、スタッフが新しいトレーニングプログラムを持ってきました。これまで何度も叱って突っ返していたものです。
『今日は内容がどんなでも、いいところを見つけてほめる』と決めていたんですが、持ってきたのを見ると、ものすごくいいものを作っていました。
『凄いやん。ここも、ここも、凄くよく考えて工夫してるやん。オレ、君らと一緒に仕事できて幸せや』
手放しでほめちぎりました。
 スタッフもぽろぽろ涙を流して、『社長、今までお役に立てずすみませんでした』と。2人で手を握り合って泣いたんです」
 1日目のリョウさんからの激変ぶりに、会場はしんとなり、そして拍手が湧きました。

 このことを皮切りに、その後もリョウさんはスタッフを次々「承認」していき、そのたびに「感動エピソード」が生まれたそうです。

●会社が伸びるかどうかは「承認」次第

 たくさんのベンチャー・起業家の方をみてきましたが、どんなに優れたビジネスモデルであっても、社長の人を育てる能力、とりわけ「承認」する力のあるなしが、会社の伸びるかどうかの決定的要素になることがあります。
起業家を優秀な起業家たらしめている資質―たとえば我の強さとか、長時間働く体力、営業力の源になる社交性、コミュニケーション力、スピード感、時代に合ったビジネスモデルや販路をかぎつける直感など―は、社員との関係にマイナスに働くことがめずらしくありません。それらの資質を持たない社員には、無性にイライラしてしまうのです。
社長が次の「夢」を追って事業拡大に走っているときに、温かいねぎらいの言葉ひとつかけてもらえない社員は疲弊し、優秀な人材も離職していき、それが足かせになって事業が伸び悩む、ということが起こります。

 「リョウさん」は、会社の「人」の問題を、人を伸ばすコミュニケーション、「コーチング」と結びつけて考えることができ、講座に足を運んだラッキーな例でした。(ただし、のど元過ぎれば何とやらで、「コーチング」も「承認」も継続していくことが大事なのですが)
ベンチャー・起業家の世界で、もっと「企業内コーチング」の重要性が知られるようになることを願っています。(了)

 

(帝国データバンク発行 TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2009年8月17日 掲載)


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