読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。さて、この連載で本年最初の登場人物は…。
●ケータイ片手の仕事にカリカリ
Aさん(36 歳)は自動車整備工場に勤める中堅リーダー。
このところ、「同僚が携帯を片手にサービスの仕事をしている」ことが気になっています。
「サービスはこうあるべき」と先輩たちから教え込まれてきたAさんには、それは許しがたいこと。
同時に、自動車の不良の原因は何か、仮説検証しながら直していく「考える力」不足も気がかり。
後輩が「このクルマわからないんです。教えてください」ときいてきても、できれば「そんなこと自分で考えろ!」と、突っ返したい。でも時間がないとつい教えてしまい、そして自己嫌悪に陥ります。
「ケータイ片手に仕事」も当然、集中力不足のもと。これをやめさせるために、何とか上司に改善提案をしたい。しかし、上司はこのところ僕の提案をきいてくれない…。
研修では、Aさんの「価値観」を過去にさかのぼってみてみました。
すると、「責任感」や「競争心」などとともに、「否定」とよぶしかない行動パターンがあることがわかってきました。
部活を途中で面白くないとやめてしまった。先生に反抗して大バトルした。先生の勧める近くの学校に行かず、わざわざ遠くの学校に進学した…。
「何人かに1人、『否定』という価値観をもっている人はいますよ。決して特殊なものではないですよ」
と、私は言いました。
「うちの子どもで1人、生まれて初めて言った言葉が否定語だった子がいます。『とーたん、かーたん』でも『パパ、ママ』でもなく『やーだ』だったんです。最初はびっくりしましたけどね。その子にとっては、『やーだ』というのが、楽しい自己主張なんです」
「ああ、そういえば」
とAさん。
「僕、同僚に『工具貸して』と言われると、『やだ』ってまず言っちゃうんですよ。自分の使い勝手のいい工具をいつも揃えて持ってるんで、よく『貸して』って言われるんですけど。まず『やだ』って言って、それから貸すんです」
そして、話は「会社の上司に改善提案をしたい」というところに戻りました。
「上司がこれまでAさんの提案を取り入れてくれなかったのは、何があったんでしょうねえ」
「ああ、それは僕がナイフをぶすっと刺してしかも『えぐる』からでしょう」
Aさんの顔がほころびました。
どうも、過去にはかなり「カドの立つ」言いかたをしていたようです。
●改革する精神は「否定」から生まれる?
ところで、いわゆる「企業改革リーダー」に、「否定」という価値観をもっている人は珍しくないのです。
周りに流されず、「これはおかしい」と気がつく。そして是正のための行動をとる。
古来、周囲との和を何よりも優先する人にはできないことかもしれません。信長的、とでも言いますか。
企業でも自治体でも、「物申すタイプの人」が組織の改革の先頭を切ることがあります。
「改善」は、「現状の否定」が出発点になるのです。
ただし、コミュニケーションに関しては、「否定」から入るとうまくいかないもの。志高い企業改革リーダーも、周囲の支持が得られなければ形になりません。自分の中の「改革エネルギー」を、周囲にあるいはキーパーソンに、ポジティブな表現で伝えられるようになった方がいいですね。
そのあとのワークでは、Aさんの考える改革を実現したとき、職場に派生してどんないいことが起こるかをイメージトレーニングしてもらいました。
そして、Aさんは今回の宿題として、「上司にどんな言いかたで提案するのがいいか、今週いっぱいで同僚に相談する」ということを自分に課しました。
「Aさんの考えておられることはまったく正しいと私も思います。その正しさがうまく伝わるようになるといいですね」
生まれて以来自分を動かしてきた価値観を認めると、心なしか表情が和やかになったAさんでした。
(帝国データバンク発行 TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年1月18日 掲載)
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